intervieweスポーツタイピング大会
RTC2018 優勝者
miri 選手
2018年10月のオンライン予選を勝ち抜き、11月18日に実施された Realforce Typing Championship 2018(以下 RTC2018)、国内のタイピング大会優勝経験者や毎日パソコン入力コンクールの内閣総理大臣賞の肩書を持つ日本トップクラスのタイパー達が出場したオフライン決勝戦にて見事優勝された miri 選手に大会への取り組みやタイピング上達法など気になることを伺ってみた。
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1対1の対戦タイピングに挑むということ
いきなりですが、連覇に対して自信はありましたか?
miri 選手
絶対に勝つつもりで、どんな相手が来てもいいように練習していましたが、連覇はできるとは思っていなかったです。
他の参加者同士ではオンライン対戦とかもあったのですが、自分は全く参加しないでひたすら Weather Typing の強い CPU とばかり対戦していました。かな打ちの muller さん(前回準優勝者)やテルさん(前回ベスト4)には、ローマ字打ちの自分では、瞬発力やスピードでは勝てません。情報を与えたらオワリだなという気持ちが強かったです。
いざ本戦に挑んでみて練習の効果はどうでしたか?
miri 選手
想像以上に速度を上げられて、ワードに慣れることもできたので、他の人が思っているよりもちょっと強いくらいにはなれたと思います。相手をびっくりさせて、プレッシャーはかけられたのかなと。
試合中は、練習と同じで相手がものすごく強いコンピューターだと思いながらやっていたので、ゴールして競っていたことに気づくことも結構多かったです。
初戦から圧倒的な速さを見せつけられていただけに、3回戦でのルーザーズサイド転落はかなり衝撃的でしたが、そこから優勝に漕ぎ着けていかがでしたか?
miri 選手
基本的には 95% を下回らないように練習をしていたのですけど、最初にバババッっと打ってしまって正誤率が落ちることを懸念していなかったのでちょっと辛かったです。95% ルールって怖いなってあらためて思いました。
ルーザーズサイドに落ちたときに次の対戦まではひたすら練習していて、誰からも「お疲れ!」などの声を全然かけてこなくて、あとから「闇のオーラを発していたよ」って言われました(笑)。
自分でも終わったなって思っていて、あそこからよく勝てたなと思います。
個人的に気になっていたのですが、決勝戦で muller さんがかな打ち有利と言われていた『元気ワード』を選ばなかったことには、どういった理由があったと思われますか?
miri 選手
最初は「フェアな条件で闘いたいのではないか」と思いました。実は理由は聞いてしまっていて、ちょっと違いました(笑)
『元気ワード』は文字数が少ないので、ミスをすると取り返しがつかないので選べなかったみたいです。実はルーザーズの3ラウンド目でテルさんが『全ワード』を選択していたのも同じ理由らしいです。
『元気ワード』の対策を何かしていましたか?
miri 選手
私は『元気ワード』を捨てていました。順当に行けば相手は選んでくるけど、そこは入力方式の壁だからしょうがないなと。
やっぱりローマ字打ちが一番好きなんですけど、限界を感じて4年くらいかな打ちも試したことがあって、今では配置を覚えていて遊びで使うレベルですが、『元気ワード』は私でもやり込めればかな打ちの方が速くなると感じます。
他のワードは圧倒的かな打ち有利というわけではなかったですし、打鍵数の少ないかな打ちはワンミスが重くなっていましたが、ローマ字打ちにもシビアというか……キツイ部分でした。
常に最善を考えている、キーボードに対するこだわり
かな打ちも試されていたなんて意外でした。そういえば2017年の時とはキーボードが変わりましたよね?
miri 選手
試してみたら、55g の Realforce が結構よかったんです。日本だとあんまりないですよね。だいたいの方は 30g ですし、「そんな重いの使っているのは枷じゃないの?」って言われたり(笑)
55g は珍しいですよね。RTC2017 で使われていたキーボードも荷重が重めのキーボードでしたよね?
miri 選手
2017年もいろいろ試してみて、すごく迷ったんですけど、重さがあってサラッとしていてミスが少ないので、大会のルールに併せて選びました。
重いとミスが少なくなるというのはなんとなくわかりますが、競技のルールが違えばキーボードも変わるということでしょうか?
miri 選手
変わります。
ちゃんと説明するのは難しいんですけど、「速く打ちやすいけど、正確性を維持するのが難しい」みたいなざっくりした話だったり、逆だったり、ワードごとに得手不得手があったり、英語はコレがいいなとかですね。ここまで来るのに家にキーボードが結構散らかっています。
もしかして、もう使っているキーボードが変わっていたりします?
miri 選手
今は Realforce R2 の 45g を一番使っていて、仕事では旧モデルの静音仕様ですね。55g は対戦や記録を出すために使っています。
55g は普段使われないのですね。
miri 選手
仕事は変換を考えるタイミングもあるのでワンクッションがあるんですけど、競技だとチカラを入れてバババッと打つので、別物だと思っています。
キーボードごとに違いが出るとおっしゃられていましたが、Realforce についてなにか気づかれたことはありますか?
miri 選手
Realforce って打建感が「スコスコ」するじゃないですか。他のキーボードはスイッチが同じだと大体似ていますよね。Realforce だけはちょっと特別だなと感じています。「スコスコ」って……伝わるかな? 指に負担がかからないですし、打鍵音も耳に障らないのがイイなと思っています。
スペースを押して、エンターを押して、という動作がつなげやすいのが仕事でも使っている理由ですね。ちょっと言葉では説明しにくいんですけど、英語タイピングをするときも Realforce が一番いいと感じています。
あと、Realforce より疲れないキーボードには出会ったことがなくて、うちの職場でも10人いて9人が Realforce を使っています。
使ってない1人はパンタグラフキーボードしか打てないっていう人なんです。
仕事で長時間打ちますけど、部署立ち上げから4年経っていて誰も腱鞘炎になったことがないですね。
趣味が活きる仕事か、趣味に活きる仕事か
お仕事ではどういったことを?
miri 選手
データトラフィックという会社で収録や生放送などで出るデジタルの字幕入力を難聴者や病院など音が出せないところに向けた仕事をしています。スポーツ実況とかではずっと喋り続けているので、場合によっては3時間ずっと打ち続けることもあります。
ただ、生放送はニュースが多いので、いろいろ出てくる字幕専用の資料の読み込みであったりとか、練習であったりとか事前準備にも時間をかけています。例えば「大坂なおみさん」の場合は、都市名の大阪とは字が違うので辞書登録しておいたり、収録番組だと、入力の他に字幕を出すタイミングや出る時間を制御する作業もあります。2秒未満にはしない、逆に7秒を超えないとか、結構面白いです。
元々速記出身の方や特殊な配列のキーボードを使っているフリーランスの方々が行っていた仕事ですが、そういった技能を持った人たちが少なくなってきていて、タイピングが速い人を活用するためにできた新しい部署です。
特殊なキーボードを使われているわけではないのですね。
miri 選手
案外、字幕の仕事をしているというと結構言われることがあるんですけど、それこそ普通のキーボードです。他社さんでも同じです。速度的には十分です。
ただ、一人ではなくチームプレーでやっています。
チームプレイですか?
miri 選手
連携入力ソフトというものがあって、3・4人で連携します。順番が決まっていて、ニュースでもまず1番目の人が文章を打って、「が」まで打ったら2番目の人に交代して、次は「。」で3番目といったふうに出しています。チームワークやお互いの信頼が大事なのでそこがまた面白いと思います。
私は日本語に自信がないのですけど…、スポーツに強い人に用語を教えてもらえたり、国会の議事録を取っていた人は政治用語も何でもわかっちゃいますし、他の人が助けてくれるので楽しいです。
私の場合は速度が出るので、誰かが行き詰まってどうしようってなってもそれなりにカバーしてあげられます。
仕事を通して打つ機会は増えているわけですけど、タイピングの実力は変わりました?
miri 選手
元々めちゃくちゃ打っていたんで…(笑)
仕事じゃなくても打っていましたし、あまり変わらないですね。
でも、いろいろなことを知ったり打ったりという機会は増えたので、初見文に対しての苦手は減りました。国の名前とかあまり打つ機会がないじゃないですか。この国はなんか見たことがあるって、パターンを掴めているなと実感することはあります。
楽しみ、悩み、挑戦したこと
仕事にまでスキルが活かされているわけですが、タイピングを始めたきっかけを教えていただけますか?
miri 選手
ゲームから入りました。
ゲームからというのはとても気になりますね。詳しく聞かせてください。
miri 選手
RTC2017 の時のインタビューの時に緊張していて適当なことを言ってしまったんですけど、実際は小学生高学年くらいのころに打モモ(うちもも 2000年10月発売)というソフトをお母さんが買ってきてくれて、それがきっかけです。
miri 選手
お弁当を作るゲームとかがあって、速く打てるとそれだけすごいお弁当ができるんです。最初はなんかコゲたパンとか、ただの白米とかしかできなかったのが、練習していくうちにたこさんウィンナーとかが入ってきて、それが面白くて。
他にやることが出来て全然やらなくなったんですけど、中学に上がってからまた時間に余裕ができて、それで出会ったのがハンゲームの『歌謡タイピング劇場』でした。
miri 選手といえば、というゲームですね。最初はどんな感じでしたか?
miri 選手
最初は自分速いなって思った記憶があります。お気に入りの曲とかを見つけていっぱいやったり、友達もできたりして、もう楽しかったです。
結局、自分速いなって思っていた時期がほんの3ヶ月で、井の中の蛙だったことに気づくんですけど。
タッチタイピングはいつ頃できるようになりましたか?
miri 選手
楽しんでワイワイやっていて、気づいたらいつのまにか覚えていていました。
私、右手の親指を使っていて、「途中で変えたの?」って聞かれるんですけど、途中まで親指を使うことがホームポジションだと思っていました。あまり考えずに練習していて、気づいたのは結構遅かったです(笑)。それで逆に速くなっていたのかなと。
最初からホームポジションではない我流でされていたのですね。親指は下段を取るのに使うのですか?
miri 選手
そうですね。例えば英語の『everybody』は左手の負担が大きいので、下段を右手の親指でも取れると速くなります。便利なので、使えるなら絶対使ったほうがいいですね。逆に私は小指を使わなかったりします。
私は手がすごく大きい方で、特に手が小さい人ほど置く位置が上に寄るので、親指を使った方がいいと思っています。
右手を使えば「n」とか「m」がとれますし、窮屈なら「b」や「n」を左で取ればいいので、使えると範囲がそれだけ広がりますし、競技でも差につながりますね。
無意識に使っていた親指が差に繋がっているのは面白いですね。『歌謡タイピング劇場』にハマってから意識して練習されたことはありますか?
miri 選手
最初にやったのは運指(うんし:キーを打鍵する際の指使い)を意識することでした。
一番簡単なのは、「x」を使うことですね。『トンネル(tonnneru)』を打つときって普通に打つと「n」を何回も連打することになりますけど、『toxnneru』にすることで右手の負担が減るので、これはもうすぐに覚えようと思って、普段のチャットでも意識して何回もやりました。
あとは、「y」「h」「b」は両手で取れるように練習しました。
何回も何回もタイピングをしているとパターンとかが掴めてくるので、この時は右手で取った方がいい、この時は左手で取ったほうがいいなという感じです。数を積むしかないんですけど、最初の頃は特に意識して練習していました。
今でも気をつけていることはありますか?
miri 選手
あまり正確性は落とさないように気をつけています。この一週間は正確性 98% 以上を維持するとか、この一週間は多少落としてもいいから打鍵を速くするとか決めて練習をして、それから記録を出すための本番をやってみてを繰り返して、85% は絶対に下回らないようにしていました。
一回崩れると甘えてしまうんですね。私がやっていた歌謡タイピング劇場は正確性が関係のないゲームだったので…。すぐ速く打てる手段があるので楽と言えば楽なんですけど、甘えてしまうと次につながらないと思って、意識しています。
タイピングを楽しみたい人、競技としてこれから挑戦したい人へ向けて
miri 選手の経験を踏まえて、初心者の方に何かアドバイスはありますか?
miri 選手
初心者だったら、まずはキーボードに触れる習慣を付けることが大事ですね。本当に触ること自体が大事だと思います。運指とかも意識しないで、ホームポジションの練習からでもいいですね。そこからだと思います。
もう一歩先に進みたいと考えた場合は、どうすればいいでしょうか?
miri 選手
初心者のうちは考えられないと思うんですけど、中級者から先を目指すなら、どの指を使って打つとかをそろそろ意識して練習する必要があります。型がついてしまうとなかなか直せません。
実際うちの職場でも、結構変な打ち方をしてしまう人がいて、直すのに苦労していました。
4本指で打っていて、タイプウェルでも ZG とか出す人だったんですけど、2年くらいかけて直していたので…。実際、直してから更に速くなっていました。なので、先にちょっと考えておいた方がいいのかな、と思います。
6本以上であれば結構自由度がありますが、4本以下はちょっと厳しいと思いますね。
では、RTC 出場を目指すくらいの人は何を意識すればいいでしょうか?
miri 選手
打ち切ることが大事だと考えている人が多いんですけど…、それはあんまり意味が無いと思っています。
なぜかというと、一回出た記録はその人の伝説で終わらないからですね。一回記録を出した時点で、タイピングという競技の中では山を越えられていて、次からはポンポン記録が出せるようになったりします。たぶん、いろいろな人が経験していることだと思います。
なので、調子が悪いなというときに、上がらないペースで無理して打ち続けても RTC を目指したりするレベルではあまり意味が無いかなと。記録を出すことに集中して、コンディションのいいとき以外は肩を張りすぎないのが大事だとは本気で思っています。
タイピングって結構精神的なものが関わってくるので、「もうムリだー」となっている時に打ち続けても結果が出にくいんです。そういう時はすぐやめてしまった方が良くて、調子が戻ってきたらまた記録を狙う感じですね。
自分の場合は、歌謡タイピング劇場でスコアを出すことが一番の目標だったんですけど、記録を出せないと思ったら他のソフトに逃げちゃいます。TypeRacer とか、タイプウェルとか、e-Typing とか、Weather Typing とかいろいろありますから。他で練習することで気分転換にもなりますし、別のゲームをすると、普段やれていないパターンのところも伸びます。
メンタル面が重要というのは RTC を見ていても強く感じましたが、身体的な部分に関してはどうでしょうか。何か鍛えたりはされていますか?
miri 選手
その人のやり方によりますけれど、あんまり関係ないと思います。
実際、私は握力がかなり弱いので。
ただ、私の場合指先に力を入れることを意識しています。そんなに強いというわけではなくて、入れ方を意識しています。指先以外の力を使わないって意識をして練習もしていました。
脱力ですか?
miri 選手
脱力しすぎちゃうと打てないので、指先だけ力を入れて、他は脱力っていう感じです。疲れないことも大事だと思いますけど、私は全然疲れないタイプなんです。
この前タイピングですぐ疲れてしまうと悩んでいる人がいたのでこのことを教えてあげたんですけど、「ちょっとよくわからない」って言われてしまいました(笑)
力を抜いたから速いってことはなくて、力を入れることは重要なんです。でも余計な力はいらない…難しいんですけど。
miri 選手のこれから
ありがとうございます。ここからは展望の話となりますが、まずは RTC2019 に向けての意気込みがありましたら、お願いします。
miri 選手
あまりここで一番取りますとか言っても無駄にプレッシャーになってしまうんですけど…(笑)平常心でやれたらいいな、と思います。一回負けてしまったあとは精神的に乱れがあって、本当に練習していたのかっていうくらいの負け方もあったので、なくしていけたらと。
miri 選手の実力であればと期待してしまう部分なのですが、世界進出についてはいかがでしょうか?
miri 選手
インテルステノ(Intersteno / 国際情報処理連盟が2年に1度開催するオフラインのタイピング世界大会)の表彰台に日本人が上がったことが無いらしいので、行けたらいいよねという話はしたことがあります。
でも英語は認識がまだ難しくて、見た瞬間にスルっと入ってこないんです。記号や暗号を打っているのと同じ感覚です。目指すとしたらまず英語の勉強からだと思っています。この文が来たら次は何がくるかを予想できるようになって、特化した打ち方をしないと難しいと思います。
目指してみたいなという気持ちはあります。そこにまだ日本人が誰も立っていないという話なので、時間はかかるでしょうけど。英語も練習はしているので、実践レベルで速くなったら出たいと思っています。
国内でも RTC 以外に対戦・競技タイピングの大小様々な大会が開かれ盛り上がっていくかもしれません。国内での活動に関しては、いかがでしょうか?
miri 選手
私、負けず嫌いなんですね。絶対負けたくないと思ってしまうので、大会があるとなるとそれしか見えなくなってしまうんです。
今は仕事も忙しくて、実は RTC2018 の前は会社に懇願して、何でも埋め合わせはするのでこの間だけは休ませてくださいって頼み込んで一週間休みました。その間は、寝る時間も削って20時間以上練習をずっとしていて…それくらいやってしまうんです。
気力を要するので、出られる大会は限られると思います。全部に向かって全力っていうのは無理ですけど、気を抜いたりは絶対にしたくありません。
やるんだったら会社を休みます。もちろん、あとでめちゃくちゃ働きますけど(笑)。